2018年05月20日

中村祐介展覧会、連続する訃報

岸井成格さんの訃報には叫びました。
15日に亡くなられた。
「サンデーモーニング」が好きな理由の一つが
岸井さんの存在でした。
井上ひさし言う所の
「難しいことをやさしく」の精神で
話される真っ当なお話が好きでした。
一度ガンと闘う姿で出演されたとき
もしかしたら回復されないのか、と
不安にもなりました。
その時が来たんだなと今は思います。
本当に惜しい方です。

続けての西城秀樹さん、星由里子さん、朝丘雪路さん、
有名人だけでも立て続けに。
そして隣のクラスの男子児童のお父さんが
ガンで亡くなられたと同僚から。
そういう時なんでしょうか。
まだ6歳のお父さんの死って。
私は母を9つで亡くしました。
もっと衝撃なのか、それとも幼いからこそ
多少は救われるものなのか。

そんな中、ずっと応援している中村祐介さんの
個展、というか足跡展覧会が
池袋パルコで開催されてて終了ギリギリの
昨日、やっと行ってきました。
どの絵も見覚えのあるもの。
中には初期作品があって
色の使い方や表情が今と違い
やや憂鬱、アンニュイが強く私は
そちらの方が好感が持てたりしてました。

アジカンのジャケットに惹かれたことがきっかけで
ブログにお返事書いたり講演会でお話したりして
ただのファンという以上に近しいものを
感じていました。
しかし、今回の展覧会で、
ああ、もう売れっ子になって遠い人になっちゃったんだな、
と実感しました。
絵に対する情熱や工夫、商業主義への良い意味での迎合、
マーケティングへのあくなきリサーチ力、
どれもこれからも伸びていく才能を感じました。

だから私と小ねこは気持ち的には
中村祐介さんとの訣別を感じて帰ってきたわけです。

今ももちろん大好きです。

ということで、
別れ、を感じたちょっぴら切ない
一週間でした。
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2018年05月17日

J亭スピンオフ企画 白酒、三三二人会

j亭スピンオフ企画 白酒、三三、一之輔
隔月替わり大手町二人会、と長い企画、
やっと参加できました。
大人気三人ですものね。
贅沢な企画、サンケイの力ってやつだ。
サンケイは新聞は右翼っぽく政権擦り寄り系で
嫌いですが、文化面はなかなか。
すみません、お世話になります、っていう
感じです。

今日は三三と白酒。
好きだわ。

前座桃月庵家の惣領弟子の「代脈」
喋りは安定。内容はイマイチな噺。
白酒の「馬の田楽」
小三治師匠のまったりしたノリではなく
テンポの良い歯切れの良い語りで
でも、田舎の風景が目に浮かぶ
楽しい可愛い噺に仕上がっていました。
三三の「三枚起請」
何度か聴いていますが、好きです。
三人三様の男たちの特徴が面白いし
喜瀬川(この字じゃなかったらすみません。
でも私的にこの字がいいです)の
デタラメっぷりも遊郭で生き残る女の
したたかさと受け取れば嫌いじゃない。
むしろいい女感あります。
ていうか、三三のお女郎は最高。

中入り。

すでに8時40分。
熱い会だ。

三三は軽めな「道具や」
しかも短いバージョン。
正蔵でさげちゃった。
白酒は「笠碁」
楽しかった。でも、これは柳家系がいい。
味わいとか哀愁を感じませんでした。
ただの碁好きなおっさんがいて
江戸情緒はなかった。
庶民的といえばそんな感じ。

ということで今日のベストは
田舎感の愛らしさ溢れる「馬の田楽」。
posted by 大ねこ at 21:55| Comment(0) | 音楽・映画・芝居などの鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月13日

中山七里「ヒートアップ」(幻冬舎文庫)

いやあ、本当に面白い。
中山作品で今までハズレがない。
ま作家デビューから10年経ってないんですね。
年齢はほぼ私と同世代。
いろいろなさってきたんだろうと
作風の違いがありすぎるあたり、
半端ない経験値を感じさせてくれます。

今回は麻薬ヒートアップを巡る活劇もの。
七尾究一郎なる麻薬取締、通称麻取が
自身が生贄となって捜査する話。
七尾は麻薬が体内に入っても
反応はあれど、平静を保てる特異体質を生かし捜査。
同僚の個性豊かな仲間からも一目置かれ、
一匹オオカミで突出しているスタンドプレイヤー。
自分では「公務員だから」と自負があるが
周囲から見たら最も公務員ではない。
だからヒートアップ撲滅のため
ヤクザのネゴシエーターの山崎と組み
今回の体を張った捜査に当たる。

誤認逮捕、強行突破、ヒートアップの製造研究所、
アメリカの攻撃、まあそれは
ハリウッド映画並みの無茶ぶり。
ありえへん世界なのに
読み手にあり得ると思わせる手法が秀逸。

おまけにいつものどんでん返しも。
七尾の誤認逮捕の真犯人がなんともビックリ。
私はずっと山崎の奥さんが犯人だと思ってた。
違うんだなこれが。

手に汗握るストーリーだけど
これは映画化は無理、というどんでん返しでした。

「いつだってこの国は国民の命よりも
体面を気にしていた」というような
社会を斬る文章が随所にきらめくのも中山作品の醍醐味。
若者受けに媚びない、玄人読み手にもズシンとくる
文学になってる。
そこが実は好きな理由でしょうね。
解説で「今野敏、逢坂剛に匹敵」的な一節が
ありましたが、私はその面白さで
その2人を中山さんは、完全に抜いていると思います。
少なくとも私はお二方は飽きましたが、
中山作品は先日まとめ買いしました。
まだまだ私の中山ブームは続きます。
posted by 大ねこ at 18:25| Comment(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月12日

井上ひさし作 たいこどんどん 紀伊国屋サザンシアター

ようやく訪れた休み。
ゴールデンウイークあったのは遠い昔話。
今日は学校の先生の女子会。
チケットは私が準備。
井上芝居を見て欲しくて。

主演予定だった窪塚俊介さんの病気降板でしたが
私は幇間持ちの柳家喬太郎師匠が見たかったので
ノープロブレム。
演出は、ラサール石井。
明るいが重い芝居になっていました。
華やかなレビュー仕立ての部分も
石井さんならではかも。

喬太郎師匠は芝居はうまくない。
でも、幇間持ちの卑屈さからの愛情、
苛立ち、諦め、苦しみの心の変遷は
よく表れていて、3時間強の芝居が長いとは
感じませんでした。
これはひとえに脇役の方々の好演のおかげ。
あめくみちこさんはじめ、
舞台の場数を踏む手練れの役者さんが
さまざまな役を変幻自在に演じます。

お江戸からの漂流記、
9年間疾風怒濤の2人旅の後は
東京に代わっていたという切なすぎるオチ。
人が体験する究極の体験をしまくった2人。
おぼっちゃまの主人公は時代に翻弄される。
幇間はそのおぼっちゃまに翻弄される。
お大尽から女郎、花魁、山賊に
囚人並みの扱いの坑道掘り人夫、
コジキまで出してこれでもか、と
人生の艱難辛苦を浴びせられる2人。
それでも生きている。生きていく。

ああ。主人公は幇間だったのか、と
見終わって再確認しました。

井上芝居の中では見やすいものの
幇間役は難しいでしょうね。
落語家である師匠は、その意味で
ハマっていました。

そんな芝居の感想を言い合う訳でもなく
女子会のメインは予約したOTTIMOへ移動して
美味しいコース料理で職場で話せない
情報交換と愚痴のおしゃべり。
いろいろ発散して楽しく過ごしました。
posted by 大ねこ at 22:54| Comment(0) | 音楽・映画・芝居などの鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月05日

ミニミニトリップ昭島 福生

昭和館は良いホテルでした。
朝食バイキングもカレーがイマイチな他は
美味しかったです。

そこから福生の東、ルート16沿いの
アメリカンショップ巡り。
ルート16は八王子から青梅方面へ伸びる
ユーミンも好きなライフロードですな。
食べたのは沖縄のブルーシールアイスと
ニコラのピザ。
ベーグルもあったので購入。
他にインディオのお店でシャツ、
小ねこはキャスパー柄のバッグ。
ちょいちょいかわいい安いもの発見、
エアフォースにちなむ高めのアメリカンウエアが
多かったです。

青梅方面から圏央道に乗って
帰ります。混んでないといいんですが。

ミニミニトリップ終了。

ちなみに写真。
一つは寺山修司さんのお墓。
もう一つは奥様の九条さんのお墓。

IMG_0401.JPG

IMG_0402.JPG

posted by 大ねこ at 13:24| Comment(0) | 旅日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月04日

ミニミニトリップ 立川、高尾、昭島

ゴールデンウイーク、ミニミニトリップ。
立川の昭島寄りに
私の姉が住んでいます。
亭主が、東京キッドブラザースの主宰、
過去には「ヘアー」でアメリカ公演もした
人なので人脈半端ない。
いつも行っちゃあ誰かに出会います。
今日は家族全員で姉の家へ久しぶりに。
道を間違えて、圏央道にすればよかったものの、
一般道に出たので時間がかかりました。
でも、無事着くと今日の出会いは
先般亡くなった深水三章さんの元奥様。
まあちなみに告白すると、
姉の亭主はその三章さんの兄貴です。
元奥様は天井桟敷ともご縁あったようで
高尾霊園に寺山修司と九条さんのお墓参りに
いらしたついでに姉の寄ったとのこと。
で、お墓参りにご一緒させていただきました。
今回は、行かなかったけれど
忌野清志郎さんのお墓も
この高尾霊園だそうです。ふーむ。

で、姉の家に戻り
手作りちまきや穴子の煮物など食べながら、
昔話に花を咲かせたのでありました。

元奥様は非常に品の良い方で
若い頃はいろいろあったことも理解できました。
三章さんは結婚してからも
姉と兄貴のいる立川の当時アメリカンハウスに
居候してました。
私はその頃を知っていたので
旦那がふらふらしているのを許容していた
ご本人を見て、納得したのでした。
その後、別の女性(萩尾みどり)と一緒になるため
離婚を申し出されたとのこと。

寺山修司さんの生まれ故郷三沢から
お墓のある高尾霊園までクリアしたのでした。
それも人の縁。
姉の人生もまたいつかまとめますが、
彼女のおかげでたくさんの人に逢っています。
今回も、単純に姉に会うだけのつもりが、
思わぬ出逢いがあって嬉しかった。

元奥様を昭島駅に送り
近くのフォレストイン昭和館に宿泊。
一泊朝食付きで1人10000円ちょい。
ゴールデンウイーク時にありがたい値段。
歩いて行ける駅前のモリタウンに行き、
「五穀」という和食屋さん。
「大戸屋」の高級版のようなお店。
美味しかった。
ヨーカドーで夜食や飲み物買ってホテル帰館。

明日は福生に寄ります。
ゴールデンウイークこそ東京ですな。
posted by 大ねこ at 19:36| Comment(0) | 旅日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月03日

中山七里「アポロンの嘲笑」(集英社文庫)

やはり中山七里さんは面白い。
社会派でありながらエンタメ。
松本清張さんと並んでよいと思います。

本書のテーマは東日本大震災。
福島の原発のメルトダウンの件に
北朝鮮との課題も絡め
仕掛けられた爆弾撤去に人生をかける男。

アポロンの嘲笑、とは
実に秀逸な題名。

揺れる大地と破壊した街。
失った命と生かされてほしい命。
これ以上犠牲者を出したくない仁科刑事は
息子が女川町の津波で行方不明。
逃げ、なのか、対決、なのか、
自分でも戸惑いながら逃亡犯を追う。

ちょうどこの本を読んでいたら
本当に広島で逃亡犯。
23日の逃亡、川も泳いで渡った男が
現実にいて、ちょっとびっくり。
まあ、彼は刑務官のいじめが嫌だったという
極めて個人的な理由だったんで
小説を越えることはなかったんですが。

逃亡犯の人生がまた壮絶で
阪神淡路大震災で自分の身を守ってくれたおかげで
両親を失くし、虐待をする叔父に育てられ
独り立ちしてもリーマンショックの影響を受け
失職、果てが原発の孫請けからのひ孫請け玄孫請けの
危険な仕事。
そこで出会う刑務所帰りの金城。
その家族との交流で愛を知る。
だから命をかける。

悲しすぎる人生に敢えての「嘲笑」とは
中山さんは人生知りすぎ。

おい。東電。原発推進政治家。
読め。
この本を読んで考えろ。
誰も責任を取らない現実を
小説でグイグイ私達に教えてくれてる。

そうだ。
電力自由化したんだった。
東電やめなきゃ。
本当に喉元過ぎれば熱さを忘れる。
愚かな日本人代表みたいな自分。
今日のBGMはせっちゃんの「ウサギとカメ」
これもこっそり反原発ソングだと思っている。

忘れてはいけない悲しみと怒りを
本書で確認しました。

この後ネットで中山作品まとめ買い。
しばし読み続けよう。

奇しくも今日は憲法記念日。
まだまだ私達は憲法を使い切っていない。
posted by 大ねこ at 21:33| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月27日

柳家さん喬独演会 北とぴあ

ほぼ地元、北区北とぴあでの
さん喬師匠独演会。
荒んだ気持ちの今日この頃、
きっと癒しになろうかと期待。
実は朝出勤間際に思い出し、
チケット握って家を出た次第。
お楽しみさえ忘れるこの頃です。

白酒さんちのひし餅さんの転失気。
いい語り口。
ちょいちょい吹き出しました。
二つ目、林家正蔵の息子、たま平。
浮世床、語り口はまずまずですが
声が大きすぎる上に表現オーバー、
どっちか小さくするといいかも。
さすが林家系、
くだらない小咄ぶっ込みました。
伝統かな。

お待ちかね、さん喬。
百川。
田舎から奉公に初めてきた百兵衞さん、
もう可愛くて!
さん喬師匠の表情間近に見られてハッピー。
言葉の美しさにも惚れますが、
愛くるしい表情に癒されました。
ネタ的には登場人物が多く、
その割にとりとめのない展開、
ひたすら百兵衞さん推しの噺。
河岸の兄さんたちのおっちょこちょいぶりも
可愛いですが、江戸っ子は方言がわからないという
江戸時代の閉鎖感が伝わりもしました。
まあ、、百川の主人には百兵衞さんの
言葉理解できているので、単に
河岸連中が無学なだけかもです。

中入り。

さん喬師匠もう一席。
笠碁。
こちらも師匠の表情を楽しむ噺。
癒された。
ワガママジジイ二人が愛らしいこと。
さん喬師匠は上品で美しい日本語遣い。
憧れだなぁ。
私は本当に綺麗じゃない日本語ばかり。
下品だし。
落語家の中で気品を感じる数少ない噺家。
見ていて包まれるような気がします。

予定通り癒された。
乾いた心にミネラルウォーター注いだような。
でも、乾きが大きいので
すぐ吸い込まれてしまいますけどね。
posted by 大ねこ at 22:53| Comment(0) | 音楽・映画・芝居などの鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月25日

倉知淳「幻獣遁走曲」(創元推理文庫)

通算7年連続一年生が、こんなにハードに感じるとは。
子供も課題の多い子がいる苦労も事実ですが、
それ以上に保護者がもろにスマホ世代ってことに
疲れている気がします。
きちんと読まないで書類提出するから
差し戻しが多い。
全て指示しないと理解できない。
毎日のように学級通信出していても
軽いクレームは連日あります。
いや、それも第一子が多いんだからしょうがない。
実はそれ以上に辛いのは
1年間仕上げたのに、また巻き戻しの始まりに
ルーティン以上に虚しさを感じ始めている
心持ちにあるようです。

今痛感しているのは
やはり人は褒められたり承認されたりしないと
モチベーション上がらないってこと。
特に上司に。
だから子供同士の褒め合い認め合いも大切ですが、
教師がしっかり褒めないと良いクラスには
ならないと思います。
だから、いっぱい指導してその分褒めています。
自分の経験値です。

あ、本の紹介だった。
猫丸っていう探偵さんの
日常に潜むちょっとしたなぞを笑顔で解く話。
他愛もない短編集。
アルバイト探偵さん。
以上です。
私はあまり面白くなかったです。
ただ、猫丸さんの姿勢には
学ばされることがありました。
先入観で見ない。
笑ってやり過ごす。
妙な人間万歳。
等々です。
posted by 大ねこ at 20:32| Comment(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月14日

原ォ「それまでの明日」(早川書房)

日本47都道府県のうち
まだ一歩も足を踏み入れていないところは
和歌山県
(ここは行く予定まで立ててチャンス失っています)
宮崎県(九州旅行でも何故か省いてしまった)
そして、佐賀県。
ここは「だって何にもないじゃん」
が正直な思い。すみません。
行く理由が見つからない。
そう思っていた。

しかし!見つかりました。
佐賀県鳥栖市には

寡作過ぎてついつい忘れがちな
でも本屋行くたび「実はまだ読んでない本
見落としているのでは……」と探してしまうも
出版リスト検索しても決して読んでない本はない、
今回の新作含めたった7冊しか生涯で出版してない
しかし全て傑作という
ミステリ作家兼フリージャズピアニストの……

原ォさんが住んでいるじゃあありませんか!
ああ、これで佐賀県を訪れる理由の見つかりました。
必ず近々、行きたい。

今回の新作である本書。
わざとのようにじっくり読みました。
でも結局13日間で読み終わってしまった。
あ〜あ、読んじゃった〜
というのが正直な感想。
沢崎ともっと会いたかった。
もうお別れ、もうエピローグ。
そう、多分原ミステリの面白さははっきり2点あって
そこがクセになるのに寡作だからじれったい。
じれったいけど再会すると嬉しくて
会う時間を引き延ばす、けど
別れ(読了)は必ずやってくる。
寂しい。虚しい。このこと自体が既に
超ハードボイルド。

で、その2点の一つは、
沢崎自身の魅力です。
この嫌煙の時代に両切りタバコその名もピースを
がっつり吸いまくる。
原さん自身もピース愛好家のよう。
私の父親もピースのみでした。
ピー缶と呼ばれる缶々の中にぎっしり煙草。
ニコチンタール量最大値だったと。
家の中、真っ黄色になります、マジで。
しかし香りが良い。
父の匂いイコールピース、でした。
だから沢崎は他人に思えない。
沢崎は携帯も持たない。
作中に一切ネットの話は出てこない。
沢崎の探偵業のネットワークは「人」です。
電話サービスの女性と声だけの繋がりから
仲良くなる件がさり気なく挿入されていますが、
これこそ古き良きハードボイルドです。

ほんのちょっと前までパソコンもケータイもなかった。
でもなんの不自由もなく生きてきた、
と歌うのは、斎藤和義さん。
タブレットで文を書きながらどの口で言っとんじゃ!
とは思いますが、
私もガラケー止まりです。
スマホは拒否した結果がタブレットになりました。

探し物はなんですか?
見つけにくいものですか?
と歌ったのは井上陽水さん。
探し物は見つかる時代になっちゃいました。
見つけにくいものなんてない、ように
感じる時代です。
だから沢崎はカッコいい。
実は見つけにくいものだらけが人生だ、と
教えてくれます。身をもって。
沢崎自身が足で歩いて確かめ
沢崎自身が出会った人の話を真摯に聴き
沢崎自身が自分の脳内、人の頭で情緒を含むデータを
客観的に整理して、結果見つけた答え通りにいかない。
そういう鈍臭い場面もたくさん描かれています。
そこがカッコいい。
パソコンで検索かけたら一発かも。
でも沢崎はしない。
自分の目で耳で感じ得ないものは信じない。
だから見つけにくい。しかしそれこそが人生だ。
そんな風に私は受け取ります。

沢崎は仕事に義理堅く
頑固すぎる丁寧さがあります。
仕事で出会った人は仕事以外では会わない。
それが今回の依頼人望月との全てになっています。
「私と望月が会ったのはこれが最初で最後だった」
と冒頭にあるわけです。
こりゃもう憶測呼びまくりの意味深な文章。
ここで私はハートを鷲掴みされます。
この一節がこれほど重要になるとはさすがに
思いもよらなかったです。
そんな沢崎の立ち居振る舞い全てがハードボイルド。
息子かもしれない男の言動にも
実に動じずクールに対応する。
しかも冷たくない。
愛に溢れているのに言動はそっけない。
これぞハードボイルドであります。

さて原ミステリの面白さのもう1点は、
話の多重構造です。
本筋からの伏線、からの別の事件、
からの新しい人物の出会い、からの
その人間の成長模様、からの錦織との確執、
からのヤクザ屋さん、……とまあ
どれが本線か忘れるような
各種エピソードがいちいち面白い。
あちこち遊びに行って御用を忘れる子供のように
私は小説の中で遊びに行って本筋を忘れた頃
ページは残り少なくなって
「アレそういえば結局望月さんどうなった?」
と思い出す頃、全てが正しくゴールに向かっていて
ページを閉じた時全てが収斂していて
その手際に驚き、満足、後に来るのは
あ〜あ、終わっちゃった……だったということです。

原さん71歳。
私の腹違いの姉と同い年だと思います。
絶対もう一作は書いてくださいよ!
そして佐賀県鳥栖市、ジャズ喫茶?ジャズバー?
目指して遊びに行きたいです。
そして何が悲しいって
今後はもうこうしたレトロと言われるであろう
パソコンもケータイも出ない話を書く人は
絶滅するんだろうと思えることです。
どうかミステリ作家目指す若者よ、
原ォ読まずして日本のミステリは
語ってはなりませんぞ。
後継者育成、ハヤカワさま、
よろしくお願いします。

あ〜、心から満足した小説でした。
とりあえず今年の暫定ベスト1。

最後に一つ疑問。
この題の「それまでの」って
どこから見たそれ、なのか。
この物語自体なのか。
じゃあ
「明日」って何を示しているのか。

実はラストシーン、ハッピーエンドじゃない。
明らかに東日本大震災で終わってる。
沢崎にとっての明日なのか。
希望の無さを示唆しているのか。
少し苦い後味でした。
posted by 大ねこ at 11:37| Comment(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする