2016年09月30日

吉田修一「怒り 下」(中公文庫)

洋平が間違いに気づき、
愛子が号泣する場面で
ユーミンの「優しさに包まれたら」が
ウオークマンから流れるって反則を
課せられ、思わず朝の通勤電車で
泣きそうになったのは私です。

映画との相違が下巻半ばくらいから
出てきました。
辰哉が田中を殺してしまう場面は
自分の家にの民宿の中でした。
田中も牙をむかずまだ本性を出して
いない段階で、あくまでも辰哉自身の
泉を守ろうとする気持ちと、
信じるものに裏切られた気持ちそのものの
真っ只中での殺人でした。
泉もその母も沖縄から去ることで
気持ちに決着をつけるのです。

他にも、刑事たちの人生や
犯人殺害での事件収束に対する無念さは
映画では割愛されています。
一方、優馬のエピソードや
洋平一家のエピソードは、ほぼ同じ。
むしろ映画より早くから彼らの関係した
男の人たちが犯人ではないことに
気づかせてくれる展開です。

どちらがいいとかいうのではなく、
映画が原作に忠実で、さらに映像の力で
見る側の想像力を掻き立てるつくりだった
ことに改めて驚きます。
余分な説明を排除し、必要なエピソードに
特化して迫るものを迫らせました。
原作は、逆に説明をぎゅっとしぼって
読み手に想像のキャパを広げさせてくれ、
人ってこんなにも弱く信じ切れないものだと
突き付ける一方で、
人ってこんなにも熱い思いで相手を守ろうとし
こんなにも傷付けてしまうものだと
愛おしさを募らせてくれるのでした。

途中途中、本当に泣きそうになって、
困りました。
原作と映画の相乗効果です。

出逢えて良かった作品です。
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2016年09月27日

吉田修一「怒り 上」(中公文庫)

サクサク読める理由は、映画のおかげ。
映画のシーンがいちいち浮かぶ。
こうなると、いかに映画が素晴らしかったか
分かる。
もちろんこの原作の良さも、来ます。

映画は無駄な説明は省き
イメージとこちらの想像で次を知る。
あるいは、次のシーンを見て前の出来事を
補う。
小説は、一つ一つのエピソードに
最低限ながら説明があり
映画では謎に残る所も納得に導いてくれる。

両方触れて、私は正式な「怒り」ファンです。
原作読み、改めて映画が凄かったと思っています。

上巻は、
田代と愛子が同居決意するまで、
優馬の母が死に、直人を少し疑い始めるまで、
泉が犯され、辰哉の家の民宿に田中が働き始めるまで。

下巻、映画との相違、共通点見つけながら
楽しみに読ませてもらいます。
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2016年09月24日

小林信彦「おかしな男 渥美清」(筑摩文庫)

小林信彦さんの文章の魅力は、
推測や思い込みを極力排除して事実重視な点と
ご自分のその当時の生活や文化状況を交えて
読み手も追憶したり想起したりができるところかと
今回強く感じました。

渥美清さんについて思い入れがある訳ではないですが、
本書を読み、いつか寅さんシリーズの何本かは
見直してみようなどと思わせていただきました。
そういう魅力ある本です。
文化史の側面が楽しい。
渥美さんと同時代を生きた人々の群像がまたいい、

例によって気になろ文章を抜粋してみます。

ー渥美清は〈生き方〉の話が好きだった。
ー渥美清は二枚目意識を持っていた。
ー渥美清は自分がお花畑のような所を少女と散歩する、
CMみたいな絵柄を本気で考えていたふしがある。
ー渥美清には〈粋〉への憧れがあった。……
〈心の粋〉といったものを本気で志していたのである。
ーフランキー堺を脅かしたのは渥美清ではなく、
人気の止まらぬ植木等であった。
ー渥美清には〈渥美語〉というべき独特の言葉があり
前にも述べた〈褥を共にする〉がそうであった。
(他にも、集おう、さしずめインテリ、など)
テレビドラマ「男はつらいよ」放映が始まった頃、
渥美いわく「おれ、乗ってるんだよ」
ー時代にズレた男は、時代にズレた言葉をさりげなく
使い、それが笑いを呼ぶ。
「男はつらいよ」のテレビと映画第1作を通じて
彼が掴んだこつはこれであった。
ー渥美清は才能はあるが、名優ではない。……
渥美清には、寛美のような〈芸における無意識の部分〉
がなかった。
ー第32作「口笛を吹く寅次郎」はシリーズ初期の
活気を取り戻した楽しい作品で、……
渥美清の〈おかしさ〉でも、シリーズベスト5に
入る出来である

こうした抜粋だけでも、渥美さんの人となりが
伺えてきます。
出自はかなりいろいろあるようで、
本当のヤクザにも師事していたふしをうかがわせ、
ストリップ劇場のコメディアンとして出発、
結核罹患、片肺で人生を生き続け、
テレビ界に入って森繁久弥を尊敬しながら
「拝啓天皇陛下様」「ブワナ・トシの歌」などで
人気が出てくる。
舞台俳優としては今ひとつ、
山田洋次監督や松竹の因縁で寅さんシリーズ開始、
48作品残し、寅次郎として亡くなった感がありますが、
実は身を潜め、真実を語らず、田所康雄として死んでいった
と、小林さんは締めくくっています。

どこか突き離しながら、距離を置きながら、
でも同時代を生きた人間同士引き合うものも
感じながら、おそるべき記憶力とノートストックで
本職を書き上げた小林さんにスタンディングオベーション
であります。

仕事の方は、昨日子供たちの100周年記念の
学校内のお祭りをしました。
1年から6年まで各クラスでお店を出して
互いに褒め合い楽しみ合い交流し合う試みです。
先生方が協力的だったので成功しました。
あとは2期制なので、成績を来週出せば
次にくるのは学芸会の準備です。
貧乏暇なしでありますが
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2016年09月17日

李相日監督作品「怒り」映画

地元のシネコンで拝見。
小ねこと一緒に泣いていう考えてきました。
まず原作は吉田修一さん。
「悪人」カップルです。
今回原作は読まずに行きました。
したがって真犯人は誰かわからず
サスペンスの要素も一杯で楽しみでした。
はじめは警察が夫婦殺害現場の調査のシーンから。
ピエール瀧が似合っている。
千葉の漁場で働く妻を亡くし男一人で住むのが渡辺謙。
その娘で少々足りない所があり
歌舞伎町で働いていた宮崎あおいを引き取りにいくシーン。
ゲイでカミングアウトしないまま企業で働き、
ホスピスにいる母を見舞う心寂しい男に妻夫木聡。
これは東京でしょう。
最後に沖縄で、街から転校してきた少女に広瀬すず。
彼女を好きで舟を出して離れ小島に誘う民宿の少年。
佐久本宝さん。とてもいい味出ています。
いわゆる大女優名俳優陣に囲まれる中でも遜色ない。
犯人らしき不詳の人びとに
ゲイの綾野剛、バックパッカーの森山未来、
渡辺謙の下でバイトする松山ケンイチ。
うう、すごいです。
3つの場面が混ざり合い、真犯人に迫る。
真犯人の意外性も息を飲みましたが、
そこに立ち昇る怒りの連鎖に哀しみを覚えます。
そしてあと2人は犯人ではない訳ですが、
そのときに人が人を信じる困難さを
目のあたりにして感じ入るものがあります。
宮崎あおいが松山ケンイチを取り戻しにいくシーンで
愚かな人間が毅然とした女に
変貌していく力強さに感動を覚えます。
どれも自分の内部にある隠された想いに肉迫してくるので
重さも半端ないです。しかし、向き合わせられる。

良い映画です。
アカデミーにはシン・ゴジラか怒りか
などと感想語りながら帰途につきました。
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2016年09月16日

柳家小三治独演会 荒川サンパール


荒川で小三治師匠の会。
前座は小はぜ「狸鯉」
狸シリーズは好き。
可愛い。

師匠、今日は「ダメ」とつぶやきつつ
喜寿のお祝いに新宿区から7000円、
同様に新宿区から敬老の祝いに赤飯、
もらったマクラ。
「出来心」長尺版を見事にやりきりました。
スジも知っているし、笑い所も知っているのに
絶妙の間合いで笑いを誘います。
泥棒を教える親分、トンマな泥棒、図々しい長屋の住人、
それに付き合う大家、四者がそれぞれに
味があり笑えます。
大真面目にやり合えばやり合うほど
可笑しい。
これで「ダメ」なら、師匠まだまだ大丈夫ですよ。
これでたっぷり1時間。
8:30終了予定ですが、この段階で8:15^_^

残り一席は
「粗忽長屋」、これまたベタな。
しかし可笑しい。
このバカバカしい噺に味わいが出るのを
人は「年輪」と呼ぶのでしょう。
時間もないのでマクラなしで
20分で完成。

なかなかもう大作や人情噺は年齢的体力的に
聴けないかもしれないですが、
今日の「出来心」のような
長尺版は本当に嬉しかったです。
posted by 大ねこ at 20:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽・映画・芝居などの鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月15日

松生恒夫監修「昭和「思い出し」クイズ」(光文社知恵の森文庫)

脳の活性化を図る本だそうで、
あっと言う間にざっくり読みました。
テレビ・CM編、音楽編、暮らし編、
スポーツ編、映画編、出来事編、漫画編に
別れ、知っているのは知っている、
逆に知らないものは知らない。
その中で、ああそうね〜となって
ニヤニヤする本ですよ。
箸休め。
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2016年09月14日

桂歌丸「極上人生」(祥伝社黄金文庫)

体調は復調しました。
クラスの子どもにうつしている感じもあり、
ちょっと申し訳ない気分。
やっと軌道に乗りつつあるのに休みが交代交代。
うーむ。

本書は、あの「笑点」の司会卒業なさった歌丸さん。
いい方だと思いますが、噺家としては
落語協会側ではないので私は詳しくないのです。
ただ、卒業されてからの独演会や二人会が
ずいぶん頻繁で、80歳越えて、体調不安も取り沙汰されて
いるのに大丈夫?と思っていました。
気になってこの本、国立演芸場の売店にあって
購入しました。
ざっと読んで、人生のいろいろは語っていますが、
どの項も詳しくない。
ああそういう人生なのね〜とはわかりますが、
なぜそうなったのかとか、当時の思いとかは語ってません。
そこがスッキリしませんでした。

例えば、
1:女郎屋稼業の生まれで、お祖母さんに育てられた。
父早世、母出奔。想うこと多いはずです。語らない。
2:今輔師匠入門、温かく育ててもらったのにいったん破門。
米丸預かりで再デビュー。その辺りの本心語らない。
3:落語芸術協会の重鎮になるにあたり、いろいろな事
あったはず。鈴本出禁になる経緯などもう少し知りたい、
が、語らない。
4:新作からの古典回帰、しかも人が演じないような
かなりの大作チャレンジし続けるかっこよさ。
そこに至る想い知りたいが、事実だけ語って
歯がゆい気持ちになる。

短気で釣り好きで酒は飲まず、富士子奥様と一途に。
我慢強い方で、相手を大事にする方だと思います。
あの談志師匠とも、年齢が近いこともあるでしょうが、
先代圓楽師匠などと同じ土俵で付き合えるとは
やはりそれなりの人格者なんだと思います。

腑に落ちない部分も多数あったので
だったらご存命のうちに聴きに行けば良いと
判断し、小遊三師匠との二人会に行く事にしました。
チケットゲット。
来年の分ですよ。
どうぞお元気でお過ごしして欲しいと
今は切に祈っています。

明後日は、
小三治師匠聴きに行ってきます。
病気している場合じゃない。
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2016年09月09日

浅田次郎「天切り松 闇語り5 ライムライト」(集英社文庫)

実は9月から体調最悪がまだ続き、
風邪が抜けません。
明日もう一度病院行ってきます。
薬飲んでも、イマイチパッとせずにいます。
仕事はやれていますが、どうもダメです。
例の遠近両用もいったん外しました。
頭痛がくるのは、このせいかと。
近眼用で困らないので、元に戻しました。

天切り松は、大好き。
よっ、待ってました!と声をかけたくなる。
松蔵がヨボヨボ爺さんになっても
きっと語りは、闇語り。
警視庁の大向こうも唸らせる名調子。
かっちけねえ、なんて花吹雪もの。
6夜が収められています。
ただ今までの闇語り以上に、目細の安チームは
確かに歳をとって、肝心の盗みより人情に絡んだ
やるっきゃない仕事が目に付きます。
黄不動の栄治兄ぃも育ての父の偉大さに泣き、
百面相常兄ぃは、五・十五事件に関わり
(チャップリンの代わりですよ。奇想天外でかっこいい)
おこんは良縁を蹴り、
やたら葬式話も多い巻でした。
つまりは、いよいよ
天切り松終わりの足音なのか、と読みながら
寂しくなってきました。

仕立て屋銀次、ってそもそもかっこいい。
この悪党一味が世間に愛され、今も現役で
松蔵がお巡りさんや犯罪者に語って聞かせる意味も
小説ならではにしても、意味深さを感じます。

体調最悪でも、この本はじっくり読めましたし
丁寧に読みたくなる一冊でした。
あーあ、読み終わっちゃった。
posted by 大ねこ at 22:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月02日

浅田次郎「一路 下巻」(中公文庫)

救急車以来、鼻血出ないかトラウマ。
おまけに病院で拾ったか、盛大な風邪っぴきに。
9月からの学校で今までで最悪な
スタートになってしまいました。

田名部の蒔坂氏は創作でしょうが
この地域は私の本当の故郷でした。
岐阜の垂井、正月くらいには結構な積雪。
それが中山道を通り、埼玉の大宮近くを
下って、お江戸日本橋に着く。
いやあ、私の生きてきた一部を
写しとっているような気さえしてきました。

山あり谷あり、裏切り者あり、
人情派浅田次郎さんは少し
もの悲しいけど、無事到着させてくれて
読み手をほっとさせてくれましたよ。
本当はとても聡明なお殿様もいいし、
一路の真っ直ぐさ、一所懸命の意味、
どれも現代人が忘れてしまった奉仕の世界や
当時でさえ忘れられた武士道について
蘇れ、と念じている辺り、
日本人の美学を笑わせながらじんわりさせながら、
一気に読ませます。

かと言って、愛国的な内容ではなく人の道、
まさに我々も一路に、と訴えている気がします。

上手いなぁと。
posted by 大ねこ at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする