2017年12月23日

かこさとし「未来のだるまちゃんへ」(文春文庫)

かこさとしさんは、御年91歳。
敗戦を19歳で迎えた生きる歴史です。
やんちゃでよく考え自意識の高い
お子さんだった。目が悪いため兵役免除、
東大工学部に入り企業の研究所勤務しつつの
絵本作家。
作家になる前にセツルメントという
ボランティア組織に属して
子供達に紙芝居や幻燈を見せていた。
作家になってからでも会社勤めをしつつの
二足の草鞋を履く生活。
唯一の彼の汚点は、家族を顧みなかったこと。
自分のお子さんとはほとんど遊ばず
他人のお子さんから多くを学んだとのこと。

でも名作「どろぼうがっこう」「からすのパンやさん」は
実のお子さんにも好評だったらしいです。

我が子の小ねこも「だるまちゃん」シリーズ大好きで
何度読まされたか分かりません。
当時全シリーズ持っていたと思います。
だるまちゃんのお人形もいまだにあります。
「いやいやえん」のしげるもそうですが、
このだるまちゃんもなかなかにワガママで
実に子供らしい。
私自身は、「だむのおじさんたち」が最初の
かこさとし体験だったと思います。

ー「子どもは未発達だ」と決めつけている
教育者たちは、子どもたちが遊びの中で
ごく自然に発揮しているこういう生物の能力を
見逃しているんじゃないか。
ー「君が持っている、ものすごい鉱脈はそれだよ」
そう気づかせてやることさえ出来れば、
子どもは、大人が叱咤激励なんかしなくたって、
自分からぐんぐん成長していけるのだと、
僕は川崎の子どもたちを目の当たりにして得た
経験から、そう確信するようになりました。
ーしまったと思ったら、次は考えろ。
自分でよく考えて、自分をちょっとずつ
変えていけばいい。そうして、失敗を
乗り越えてゆけるのが人間で、
君もその一員なんだよ。
ー子ども相手だからこそ、むしろ小手先の技や
ごまかしは通用しない。
人間対人間の勝負。

最後の二つは、私自身も日常的に
肝に銘じて仕事しています。

かこさとしさんはいまだに戦争についての絵本が
描けないとおっしゃる。
それは情緒としての絵本は描きたくないという
気持ちの表れなんだと思います。
原子力にも仕事で携わり、経済効果や
安全性等に始まり、政治力学やる世界的展望を
よく知る科学者だからこそ
実は誰よりも戦争反対でありながら、
個の力では描き切れないジレンマがあると
推察するのです。
でも、ここは命尽きる前に妥協作でも
よいので、出版していただきたいと
教育現場からは熱望しています。

どうぞさらに長生きしていただき、
優しくも厳しい眼差しで
我々のともしびでいてください。

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2017年12月19日

浅田次郎「日本の「運命」について語ろう」(幻冬舎文庫)

あとがきを読んでびっくりしたのは
この本が語り下ろしではなく
様々な場所で行った講演会の記録を
起こしてまとめたものだということ。
それはすごい。
よくまとまっていますし、
浅田さんが一貫して主張をもっていて
不変な態度で語られることが伝わります。

いくつか引用します。

ー高校で日本史と選択科目です。
自国の歴史を教えないのは恐ろしいことです。
今、自分が生活しているこの社会の
座標がわからないという意味ですから。
ー戦争について書き残すことが、
苦労した父母の世代、祖父母の世代への
礼儀です。若い世代、これから生まれてくる
世代への責任でもあります。
ー方言が失われると、その土地の気性が
失われるんです。言葉は風土の保存装置なのです。
ー歴史を知るのは、自分たちの立ち位置を知るためで
あって、正当性を声高に言いつのるためではない。
ー中国の科挙を突破した中国歴代王朝の政治家、
官僚は全員が詩人です。文治国家としての
中国の面目躍如であります。すごい国だと
思いませんか?政治家が全員詩人って。
ー農耕民族にとっては強大なリーダーシップだとか
ずば抜けた能力などはあまり必要ない。
農耕民族にとっては、長男相続がいちばん
適しているようです。
ーキリシタン弾圧に対して「ひどい話だ」
「残酷だ」などという価値観で教わっていますが、
これは安全な保障上の国策でもありました。
ー日米和親条約を結ぶことでアメリカは
日本外交上の最恵国となったわけです。

みんなの知らない世界、というあたりでしょうか。
まだまだご健在、新作も出ました。
8歳上の先輩についていきます。
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2017年12月16日

映画「鋼の錬金術師」

荒川弘さんは最高の漫画家の一人です。
その中でも「鋼の錬金術師」は最高峰。
1:女性が考えつく世界観ではないのに作者は
女性。
2:錬金術師の練成というヨーロッパの神秘に
迫り、人の限りない欲望と人道に言及してること。
3:戦争や内乱、革命を描き、命の重さに
惜しみなく迫る内容。
4:キメラ、ホムンクルス等、現代科学の危惧や
可能性を示唆していること。
5:兄弟愛、家族愛が主人公の言動の基調であり、
全てそこに収斂していく情感。
6:ユーモアを忘れず、緻密な筆さばきなのに
きどりが全くない画風。中性的な人物表現。
等々、あげればきりがない良さ満載。

長い、壮大、深い、重い、この漫画を
実写化すると聞き、いざ鑑賞。
銀座は丸の内ピカデリーに向かいました。
今日に限って京浜東北線架線不調で
地下鉄乗り換えしたりしていつもの
倍の時間かけて到着。
まあ他にも買い物したり、
小ねこから半年遅れの誕生日プレゼント
買ってもらったりあっという間に映画開始。

小ねこいわく、
ネットでは不評酷評が多いとのこと。
いや、結構な数の映画見てきた素人としては
五つ星なら四つあげて良いレベルかと。
1:配役素晴らしい。どの役もこの役者、よく
もってきたね、と褒めたい配役。
ジャニーズの山田涼介さん、鼻が高めで
目が鋭いけど温かい瞳なのでまさにエド。
松雪泰子さんは人工的美貌活かした人造人間の
ラストにハマっているし、
非人道のタッカーに大泉洋さんは
二重人格っぽさがよく現れていたし、
ディーンフジオカさんのマダムキラーの
意味がよく分かったマスタング大佐も適役。
2:長いストーリーをよくもまあ2時間に。
脚本家の手腕が素晴らしい。
整合性を究めて、原作を荒らさず、
必要な情報を的確に入れていました。
イシュバールの部分は割愛されていたけど、
それは仕方ないでしょう。
3:映画ならではのVFXとかいうんでしょうか、
錬金術師の術全開のシーンや
ホムンクルスの襲う場面、
賢者の石を悪用して出来損ない人造人間が
大量生産されるシーンなど
へえええ〜、と感心して見てました。
4:アルとエドの兄弟愛や、彼らが欲望と
人道に悩むところなど、原作が目指す要点を
逃さず真っ向から描く姿勢に感動すらしました。

ということで、若いみなさんには
特にオススメ鋭い映画でした。
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2017年12月11日

細野晴臣「HOSONO百景」(河出文庫)

久しぶりに細野晴臣さんの曲
ウオークマンにてじっくり拝聴。
低音とアンビエント、ごった煮ガンボが
改めてなるほどーと納得。

東京は白金、実家はお金持ちだと推察、
音楽的にも恵まれた環境とも推察。
50年代の音楽をあの世のものと言い、
今は40年代の音楽にハマっているという。
はっぴいえんどからキャラメルママ、
狭山でのHOSONOハウスでの宅録。
横尾忠則さんなどとの交流やインド体験を経ての
YMO、隠遁しつつの各国体験、
各国の音楽の吸収、
しかし教授のクラシックではなく
ユキヒロのテクノではなく
あくまでポップミュージックに元がある。
この辺、レパートリーや手法は大きく違えど
桑田さんに酷似。
だから私は細野派なのだ。
俳人金子兜太言うところの「定住漂泊」があうと
解説のいとうせいこうは言う。
納得。
細野さんが紹介するアーティストやレコードの
三分の一くらいしか私は知らない。
けれどその姿勢と彼の曲間違いなく好きです。
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2017年12月10日

映画「探偵はBARにいる3」

久しぶりの映画。
これも久しぶりに中ねこさんと一緒。
大泉洋の良さはさておき(失礼)
松田龍平君のかっこよさと
北川景子の表情の美しさと変化と
リリー・フランキーのアクの強さと
松重豊のユーモラスさと
オープニングのはちみつぱいの「大道芸人」
エンディングの同「大寒町」のハマり具合とに
ノックアウトされました。

ストーリー的には原作東さんが作っていない
オリジナルストーリーのため
ちょっと映画映画していましたが
探偵が探偵らしかったのはオーケーです。
札幌全面フィーチャーは北海道民大喜びかと。
札幌市長やら日本ハムの栗山さんやらも出演なので。
こういう地元密着型のドラマ好きです。

にしてもベルウッドの3枚組CD、やっぱり
買おうかな。それくらい主題歌がハマり、
それだけでも見るに値する映画でした。
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2017年12月06日

橘蓮二プロデュース 三三、一之輔二人会 よみうりホール

三三と一之輔の二人会、
そりゃ満員ですよ。
プレリザーブでチケット取ったけど
2階席。人気者です。

前座さんが予定の方の急病とかで
別の人になったようです。

今日は仕事の方も研究会。
若手の、本人いわく特活新参者が
頑張って新しい提案授業しました。
指導校長が風邪で欠席、ちょっと引きました。
管理職手当貰っているんだから
しかも自分が授業推進していたんだから
這ってでも来い!ですよ。
4月から今日のことは決まっていたんです。

なーんて、チョイイラ状態で参加です。

前座の無精床が救いがなくて
笑うどころかなんでこんなイジワルな
感じの悪いネタなんだ!と
イラッと感が増したところに。

一之輔 富久。
熱演、非常に面白かった。
年末宝クジと江戸の火事とを両方経験する
酒でしくじる幇間持ちの噺。
悪者が一人も出ないのもいい。
幇間持ちの人の良さがいい。
彼を受け入れる火事先の旦那がいい。
彼の家も燃えてしまったのに
神棚含め家財を守ってくれた親方がいい。
当たりくじあってよかった!と思わず感情移入、
サゲの「あちこちにおはらいいたします」がいい。
本当に救われる。
年末にふさわしい大ネタだと思う。
いくつか聞き取りにくいところもあったけど
全体として情景がくっきり浮かぶ
見事な噺でした。

中入り。
今日は大ネタ一個ずつらしい。
さすが有楽町仕様だ。

アコーディオン持って
シャンソンやカンツォーネ、民謡など
自在に歌うあこさんが中継ぎ。
京浜東北線の歌詞を付けた「私のお父さん」が
笑えました。うまい。

三三 それを受けてかマクラなし。
嶋鵆沖白浪の一段。
以前月例三三で、確か昨年、掛けて
全段一年間で演じた一部をやってくれました。
しまちどりおきつしらなみ、と読みます。
こっちは悪者だらけ。
五戒を破る生臭坊主に、それを強請るヤクザもん、
そのヤクザもんを利用して坊主を強請る
インチキ坊主。
お裁きすら利用して金をせしめる筋書き、
むしろここまで悪者だらけだといっそ
小気味よかった。
燕枝という方の作品で、よくもまあ選んだ。
どこに行こうとしているんだろう。
覚えられる時に覚え、
演じたい時に演じる、
自分が聴きたい噺をやりたいからやる、
そんな気概を感じました。

通好みというか、
この会のプロデュースが落語家の写真を撮らせたら
右にも左にも出る者がいない橘蓮二さんだからか、
逃げも隠れもできないようなネタでした。
大満足です。
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2017年12月02日

伊坂幸太郎「ホワイトラビット」(新潮社)

12月に入りましたね。
今日は学校の子供達のお祭り。
教師側リーダーとして全クラス周りました。
どのクラスもよく考えてできていました。
学校のチーム力に感謝です。

伊坂幸太郎作品は中山七里作品同様、
薀蓄の宝庫。
ここで出てくる「ラ・ミゼラブル」やオリオン座の
話はなかなか深かった。
白兎といえば因幡でしょうし、いつもの黒澤主人公も
私的には満足です。
立てこもり事件を中心に
どんでん返しの連続。
読み手を気持ちよく翻弄してくれます。

人の人生は
はい生まれました。はい死にました。ではなく、
はい生まれました。はいいろいろありました。
はい死にました。だということです。

黒澤自身もいろいろ。
犯人を追う夏之目もいろいろ。
(家族を事故で失い、その原因である占師殺害の過去)
立てこもりした兎田もいろいろ。
(悪者稲葉!に最愛の綿子ちゃん拉致られ九死に一生)
兎は綿に癒されましたものね。
立てこもられた不幸な親子もいろいろ。
(亭主はサド、人生やり直したい系。
稲葉が追う折尾を誤って殺しちゃった!)
そんなこんなが交錯して立てこもりを演出しないと
解決できない状況があってこの小説は
成り立っています。
一概に悪とは何か、断じ切れない人の物語が
ありました。

まあ、だから何だっていう話ではありました。
でも、作者の温かい視線が
この小説を面白くさせています。
ハードカバーでも買いたい作者です。
posted by 大ねこ at 19:29| Comment(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月27日

中山七里「静ばあちゃんにおまかせ」(文春文庫)

題名の軽さから高を括っていました。
なんの、さすが中山七里さん。
本格派。
しかもやはり成長小説。

葛城刑事と高遠寺円。
その円の祖母が元裁判官の静。
葛城の支援を惜しまず円は
おばあちゃんから知恵を借りて
葛城を助けていく。
円自身ものちに司法の路に進むべくの大学生。
一番最後の話でおばあちゃんは幽霊という
不思議な終わり方は不可解ですが
それ以外は薀蓄に富むおばあちゃんの言に
円ならずとも読者も居住まいを正します。

連作集でどの話も手抜きなし。
一つ一つが珠玉。
さらに葛城と円の恋愛物語でもありニヤニヤします。

おばあちゃんの言の一部抜粋。
ー物心つく頃からその人なりの行動規範というものは
自然にあってね、その自分の規範と世間の良識を
擦り合わせていく作業を成長というの。
ー仕事の価値はね、組織の大きさや収入の
多寡じゃなくて、自分以外の人をどれだけ
幸せにできるかで決まるのよ。

ジーンとします。
円お葛城も可愛いですよ。
posted by 大ねこ at 21:47| Comment(0) | 読書の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月26日

春風亭一之輔独演会 さいたまスーパーアリーナtriro寄席

前座の金明竹。
いや、なかなかうまかった。
三三っぽい。
で、調べてみた。
春風亭きいち。本名小林ユウキチさん。
俳優しつつ一之輔に入門。
俳優での修業も生きている。
私は見どころあり、と踏みました。
期待。

一之輔師匠。今日は軽く攻めた感じです。
そういえばご本人も後半でおっしゃっていた通り
鈴本のトリですね。
そっちもありますからね。

はじめに、寄り合い酒一部。
角の乾物屋フューチャー版。
続けてちょっと色っぽい尻餅。
いっちゃんやると色っぽくはなく
やんちゃ坊主がお母さんの尻叩きを
楽しむような構図に。

中入り後は季節柄のネタ
「二番煎じ」。
これは実は三三さんで聴いて唸ったんで
正直軽すぎました。
明るい町内のオヤジ達と
お人好しで話が分かる番人で嫌味なく
温かい雰囲気で悪くなかったですが
アクがなさすぎ、というか
あっさりしすぎて面白味に欠けた気が。

しっちゃかめっちゃかのいっちゃんが
影を潜めて、ちょっと大人になったかな。
まあまだ39歳だそうで、
いろいろ変わるところもあるかもです。

また後日お会いするチャンスは
作ってあるので次回に期待ですね。
posted by 大ねこ at 20:18| Comment(0) | 音楽・映画・芝居などの鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月19日

こまつ座 きらめく星座 紀伊國屋サザンシアター

久しぶりに笑いながら泣きました。
素晴らしい舞台でした。

ずっと見ながらてっきり終戦前夜の話かと
思っていたら、途中あれ?となって
そうか、これは戦争前夜12.8までの話かと
気付きました。
山西惇さん、うまい。
秋山菜津美さん最高。
オデヲン堂主人の久保酎吉さんも
居候の宮澤賢治を感じさせる竹山の木場勝己さん、
みんなうまい。
その後演技力に引き込まれつつ
やはり井上ひさしさんの台本の凄さを
実感させられる舞台でした。

竹山のセリフの宇宙の中の地球、
地球に住む人類、全てが奇跡だという
今や臭すぎるような言葉渦に飲み込まれ
涙が出ました。
そしてラストの、後妻ふじこと秋山さんが歌う
「青空」の迫力に飲み込まれて
やはり涙出て止まりません。
その間ずっと笑っているのに、です。
温かな美しい一庶民達が
離れ離れにならざるを得ない時代。
そもそもが、後妻とか居候とか
本来の血族ではない人々が
戦争を鼻で笑ってたくましく生きていた、
その事実にまた涙してしまいます。
笑って笑って生き抜いた健気な庶民を
戦争はいとも簡単に打ち砕く。

戦争の愚かしさ
戦争の大義を信じ裏切られ神経をやむ
傷痍軍人の源さんこと山西惇さんの姿、
痛烈でした。

いい舞台でした。
多くの人に見ていただきたい
井上ひさし脚本の金字塔の一つです。
posted by 大ねこ at 00:07| Comment(0) | 音楽・映画・芝居などの鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする